2013年1月18日金曜日

不動産鑑定事業部コラム 第①回 「賃料交渉」



はじめまして。

不動産鑑定事業部、鑑定士の伊奈です

今年から不動産にまつわるコラムを毎月掲載することになりました。
 
どうぞよろしくお付き合いください。


さて、年末年始は実家のある九州に帰って

のんびりしようと思っておりましたが、親の知り合いが

 「テナントの飲食店から賃料の値下げを迫られて
                          困っているので何とかしてほしい」
と頼まれました。


理由は、
 
・賃料が高過ぎる
・前年より客が減って売上が落ち経営が苦しい
 
という内容でした。

 
裁判がらみで賃料鑑定をした経験はあっても、
 
直接テナントと賃料の交渉はしたことがないと渋ったにも拘らず、
 
鑑定士だから(不動産の事なら何でもできるはず?)と押し切られました。


しかし実際の鑑定でもそうですが、
 
個々の案件ごとにベースの知識だけでは対応できず、
 
新しく勉強が必要になることはよくあります。


このケースでは、
 
問題の店舗が地方にある繁華性の低い商業地の中で、
 
国道と主要道の交差点に面した1階とピンポイントの立地の為、
 
類似店舗の賃料データは収集が困難でした。

 
ではほかに現行賃料が高いか安いかの判断材料として
 
簡単に使えるものはないか探した結果、
 
「売上高に占める賃料割合」 を検討してみることにしました。

 
調べた情報の中で最も参考になったのは、
 
田原都市鑑定のHPに掲載されている鑑定コラムです。

 
田原先生とは私が前職の不動産鑑定会社に勤務していた時

何度かお会いしたことがあり、セミナーにも参加させて頂きました。
 
賃料裁判の鑑定経験が豊富で、優しい人柄の方です。
 
そのコラムの中で、
 
日本の飲食店では通常賃料は売り上げの10%程度であると言われている事、
 
田原先生自身が行った調査でもそれが裏付けられた事が述べられていました。


また飲食店経営で目安とすべき経費別割合を調べ、
 
テナント店主が提出した資料を検討しました。


まず問題の売上げに占める賃料割合を計算してみると、なんと

4.7%落ちた売り上げに対しても現行賃料は高いどころか安すぎる
 
という結果になりました。
 
店舗の場合、築年数や設備に比べて立地の善し悪しが
 
その収益に与える影響ははるかに大きいものです。

したがってこのテナントは
 
現行の売上高を上げられる立地のポテンシャルに対し、
 
賃料面では得をしていることになります。

 
では本当に経営を圧迫している原因は何かさらに検証を行ったところ、
 
水道光熱費及び人件費は妥当な水準にありましたが、
 
仕入原価が売上の50%弱を占めており
目標とすべき30%からすると高過ぎることにありました。

よって総売上の5%でしかない賃料を少々値下げしたところで
 
経営の苦しさは変わらないであろうこと、
 
それよりも売上の半分を占める仕入を見直すことで

収支が向上するということがいえます。

上記のような結果をもとにテナントの店主と話し合いに望み、
 
私自身の経験も踏まえたコンサルティングをしながら
 
当面賃料の減額はしないという結論に落ち着くことができました。


話し合いの中で私が個人的に感じたのは、
 
  「テナントはオーナー側には金銭的余裕があるのだから 
         ごねれば多少の値下げには応じてもらえるだろう」
 
という気持ちがどこかにあるということです。


同じようなことは、

アパート・マンションの入居者とオーナーとの関係にも

当てはまるのではないでしょうか。

 
賃料交渉がこじれて長引くようなケースでは、最終的には

オーナーの金銭面での事情もある程度踏まえながら話し合うことによって、

どちらにも納得できるような妥協点を見出していけるのではないかと思います。

 

参考出典:赤土亮二『飲食店の儲けの出し方成功教科書』

               田原拓治『Evaluation』創刊号
                             p42(清文社)の「売上高に対する家賃割合」